内にあやなんを飼いし女の鎮魂歌
東海オンエアとあやなんさんを取り巻く騒動、少々落ち着いたようなのでこのタイミングで上げてみる。
私は両者についてほぼまったく予備知識はなく、
おー派手にやってんなー、
としか最初は見ていなかったんだけども、徐々に目が離せなくなってしまった。
特にあやなんという女性について、本能欲求にどこまでも従順な方だということだけは分かったんだけども、セカンドパートナーとか云々は一回置いておくとして、実は結構この方の悲哀や苦心を理解してしまった。
理解してしまったがために、あやなんさんが今ボッコボコにやられているのを見ると苦しくなってくる。まるで、「お前もこうなるぞ」という反面教師のようにも勝手に受け取ってる。
そのことについてちょっと語りたい。以下少し口調も変わるけれども悪しからず。
我が家は単身赴任家族である。
そもそも私と夫は同じ組織に所属する、非常に近しい同僚である。もちろん人事を決定するボスも同じ、何ならそんなに大きな組織でもないので、人事マン含め多数の上司にあたる方々に結婚式にもご臨席頂いている。
我々の組織は転勤ありきの職場ではあるが、一応所属時には「もし夫婦で転勤になったら、同じ県にするくらいの配慮はするからね」というお言葉を頂いていた。
ところがどうだ。
結婚半年、私だけ他県転勤になった。
幸い1年後には夫も同県に転勤となり、そこで第一子をもうけた。
そして第一子育休中、続けざまに第二子を妊娠したことが分かった直後、
また夫が他県転勤となった。
転勤は仕方がない、しかし問題はそこではなかった。
私は妊娠しているとはいえ、第二子の産休に入るまでは一旦でも復職する予定だった。
私の職種ははっきり言って希少人種である。同じ資格を持った人間なんてそうそう見つからない。
つまり産休までの間とはいえ、労働力として見込まれていたのである。
そんな私に対して一言も、なんの相談もなく、人事は夫に転勤を決定事項として伝えてきた。
もちろん私に対しては「お前はそのままそこで働けよ」の辞令とともに。
こうして私は妊娠初期のからだで、第一子を一人で世話しながら復職もすることとなったのだった。
誰に労わられることもなく、当然のこととして。
もちろん私は荒れた。
内と外での育児、家事、そして仕事、そんなもん全部ひとりでは抱えきれないと不安でいっぱいだった。
一言くらい、「ごめん、がんばって」の一言でもあったらまだ良かった。それすらもなかった。
完全に私の意思は無視された。
「私は承知していない、ひとりでは無理だ、転勤を考え直してほしい」と言えばよかったかもしれない。
でも言えなかった。
なぜか?
夫の転勤先が、「本部」と言われる場所、いわゆる栄転だったからである。
我々の中での本部転勤は、つまり仕事に全身全霊を捧げよ、という意味である。
君のすべてを捧げよ、さすれば名誉を与えん。
時間外労働はすべて無給、しかし24時間いつであっても呼び出される。
そもそも立場は日雇いであるため賞与も存在しない。
もちろん住宅費や引っ越し費用などの転勤に伴う費用も何一つ補助もない。
はっきり言って仕事は増え、収入は減る。
そんな環境で何が栄転か?
それは「本部という業界の頂点で研鑽する栄誉」が与えられるから、とお偉方が信じているからである。
ならば私が仕事をやめて、ついていけば良かったのでは、という意見もあるだろう。
それはできない。
だって夫は本部で、24時間己を仕事に捧げる戦士となる。
そんな者と子育てができるか?否である。
むしろ疲弊して帰ってくる夫に負荷はかけられないし、いつ呼び出されるか分からない者に子供なんて預けられない。上記のごとく給料も高くない。むしろ私のほうが稼ぐようになる。
それはもう、家族の構成員としての離脱、と同義に感じたのである。
ならば私が責任を持って、この子達を育てなければ。本部は私ひとりの肩に、「家庭」というものすべてを背負わせたのだから。だから私は、自分が留まって稼ぐ道を選んだ。
そういうわけで私は夫を転勤に送り出すとき、「子供の父親を本部に差し出す」心持ちだった。
もう心の中ではシングルマザーよ私。
もちろん、ひとりで立ち行かないこともあった。
第二子の出産に際しては夫に男性育休を取ってもらった。
我が職場では、男性が育休を取ったのは初めてのことだった。
夫はボコボコに言われ叩かれ、取れた育休は1週間だった。
それでも育休をもぎ取ってくれた夫には感謝している。
もちろん夫は私には隠しているが、ボコボコに言われたのは私も同様だと知っている。
「嫁が夫の仕事に非協力的だ」
「育休を取れなんて、嫁からの要求だろう?そういうときは祖父母に助けてもらって、夫は快く仕事に送り出すのが内助の功だ」
そんなことを夫に向かって言われたのを知っている。
私は自分の両親と子育てがしたいんじゃない。夫と子育てがしたいんだ。
夫と家族でいたいんだ。
そんな言葉も吐き出せる場もなく、頭の中をリフレインしては消えていった。
ちゃんちゃらおかしいわそんな職場、と思うであろう。
でもしばゆーはどう?
彼は「東海オンエア」という名誉あるグループの一員である。
彼はひとりしかいないし、替えが効く存在でもない。
そんなしばゆーに、嫁が「もっと家族のいる東京に帰ってこい、『家族』やれ」って主張したらどう思う?
もしくは妻子が岡崎に越してきて、「こっちには両親もいないんだから子育て参入してね」と言って夜の外出など制限をかけてきたらどう思う?メンバーの誕生日やイベントごとの集まりが悪くなってきたらどう思う?
妻子ウザくね?ってならない?
今回の騒動、見ててしんどかったのは、この「妻子東海をジャマするべからず」論が結構大っぴらに言われていたこと。
名誉あるしばゆーの嫁たるもの、決して出しゃばらず、夫の仕事を妨害せず、慎ましやかに責任を持って家庭を営み、いつでも「東海オンエア」のもとに笑顔でしばゆーを差し出すべし。
ああ、やっぱりそうあるべきなんだな、って思った。
騒動の発端となったあやなんさんのストーリー、
「多額の慰謝料取って離婚してやる」
この言葉が東海オンエアそのものに向けられたメッセージであったと、どれだけの人が理解したのだろう。
私はこのメッセージが、
「そんなに私たち妻子がジャマなら、離婚して東海オンエアのもとにしばゆーを返してやるよ」
という叫びに聞こえていた。
その理解はおおむね合っていたのではないか、と思う。
私もいまだに時々、
「本部は私たちが離婚したら大喜びだろうな」と考えることがある。
家族という鎖から解き放たれ、夫くんはもっと仕事に邁進してくれる!
さあ飲みに行こう!慰労会をしようじゃないか!なんてね。
あやなんさんのように私が暴れだしたら、私は「夫の妻」をクビになるんじゃないかな、なんて馬鹿なことを考えることもある。
「夫の妻」をやらせて頂くには、本部に許される存在でいるべきなのではないかと。
視聴者とメンバーから許されて、「てつやの妻」をやっている峯岸さんのように。
視聴者とメンバーから否定されて、「しばゆーの妻」から退場させられそうなあやなんさんのように。
そしてやっぱり怖いのが、しばゆーが当初若干空気だったこと。
仕方ないのよ、お仕事は本当に大事だし、大切だろうしね。
でも、もし私がひとり家庭運営に限界がきて、夫にヘルプしたら夫の職場に嫌な顔されて、それに物申したらその夫から宥められて…
「お前、『家庭』を全部私にひっ被せておいて、背中から撃つんじゃねー!」
ああ、そうなのだ。間違いなく、私の中にもあやなんがいる。
限界を迎えたら、私もきっとあやなんになるのだ。
そしてその可能性を感じているからこそ、私は彼女の心境を理解できてしまう。
この騒動は途中から、いずれ自分の行き着くかもしれないルートの結末を想起させるものだった。
恐らく今後、私は彼らの行く末を目で追わずにはいられないだろう。
何より、これからの彼ら自身の人生、彼らのお子様方の人生に幸多からんことを心から祈る。
そして同様に、私と夫、子供たちの人生にも、多くの幸が訪れるようにと、心から願う。